2003年、名古屋から福岡に移住して出会った“甘い醤油”。
本州の塩辛い醤油で育ってきたので、甘くまろやかな九州醤油は衝撃的でした。
そして九州醤油の美味しさに感動して醤油屋になったのです。

今回は、九州醤油がどうして甘くなったのか、歴史や風土からその味の背景を探ります。



九州人は砂糖をたくさん使う

全国の砂糖消費量を調べた統計を見ると、九州は一人当たり年間砂糖使用量が、全国平均より10〜20%ほど多いことが分かります。

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九州の平均は、全国平均の約1.1倍。なんと宮崎市は1.32倍です。
この数字だけを見ても、九州人は砂糖=甘い味が好きなのが分かりますね。

ではなぜ、甘い味を好むようになったのか?
歴史、地理、食材の3つの観点から、九州の醤油が甘くなった理由を考えてみたいと思います。
 


理由? 【歴史】鎖国政策

江戸時代、日本は鎖国していました。
その、唯一の貿易窓口であったのは長崎の出島。
そこを通じて輸入された砂糖は、長崎街道を通って本州へ渡りました。
長崎街道は「シュガーロード」とも呼ばれ、砂糖を比較的入手しやすかった沿道の地域には砂糖を使った甘い料理やお菓子が多くあります。
当時まだまだ高級な嗜好品であった醤油にも砂糖が入れられたのです。
余談ですが、砂糖が足りないことを「長崎が遠い(遠か)」という表現もあるとか。
(参考)砂糖文化を広めた長崎街道|日本遺産ポータルサイト



理由? 【地理】温暖な気候

温暖な地域ほど甘いものへの欲求が強くなると言われます。
体内にこもった熱を発散させるために、また、暑さで失われた体力を補うために自然と甘い物が欲しくなるようです。
確かに、九州は南に行くほど塩分控えめで甘い味つけになります。

ちなみに、福岡在住の私にとって鹿児島の醤油はものすごく甘く感じることがよくあります。
中でも衝撃的だったのは、スーパーの棚に"甘味料”が砂糖と一緒に並んで売られている光景でした。
醤油に使われる代表的な甘味料は「ステビア」「サッカリン」「甘草」です。
それら甘味料を原料とした“ダイエット用砂糖”はしばしば見かけますが、甘味料そのものをスーパーで見たのは初めての事でした。



理由? 【食材】新鮮で豊富な魚貝

九州はどの県も海に面しているだけあって、海の幸は身近な存在。
だから鮮度は抜群、サバ・アジといった青魚も刺身で食べることが出来ます。
九州に住んでいると青魚の刺身はごく当たり前ですが、これを東京や大阪の方に話すと驚かれます。
新鮮な獲れたての魚は味は淡白なものが多く、それを引き立てる甘めでまろやかな風味の醤油が好まれてきました。

ちなみに甘めの醤油を刺身の両面にべちゃ〜っとつけるのが九州流。
本醸造で辛めの醤油は味や香りが強いので、魚の生臭みは消してくれますが、刺身が醤油味に染まってしまうという人もいます。

その他にも、船上で素早く料理が出来るように予め砂糖をとかした醤油を携えて漁に出たという説もあります。

ここからは私個人の見解です。
丸一日海にいて潮風に当たっていたら、唇を舐めた時に塩っぱいと感じたことはありませんか?
塩気を帯びた空気をずっと浴び続けていると、無意識に甘いものが欲しくなるんだなと、海に行ったときに思ったのです。
この説が合っているかは分かりませんが、総じて海に近い場所の醤油は、塩分が低く甘いようです。



まとめ 九州醤油は美味い!

「九州の醤油は甘い」とは言っても、北部と南部ではそのレベルは全く違います。山間部と海岸部でも異なります。
その土地ごとに気候も違えば、そこで採れる食材も違います。

醤油は、そんな日本の気候風土や歴史によって生み出された、先人達の「叡智の結晶」だと私は思います。

職人さんや技術者さんが、料理がもっと美味しくなるようにと創意工夫を凝らし、現在の多種多様な味にたどり着いたのだと思います。

「甘味料が入っているなんて醤油じゃない」
「大豆と小麦と塩だけで作られているのが本物の醤油」


そういう意見もあるとは思いますが、この甘い醤油の裏側にはたくさんの人々の想いや歴史が込められていることを少しでも想像して頂けたら嬉しいです。

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